千景くんは魔法使い
「遠山、これを頼む」
放課後。私は相変わらず先生から雑用を頼まれていた。
今日はバドミントン部の顧問が出張なので部活は休み。桃ちゃんは彼氏とデートの約束をしてるようでホームルームが終わったあと、すぐに帰った。
頼まれたプリントをホチキスで留めて、ふうと息をはく。
騒がしかった教室が嘘のように今は誰もいない。けれど、千景くんのカバンだけは机に残されていた。
……どこにいるんだろう。
先生から頼まれた作業は15分で終わり、私はなんとなく廊下に出てみる。
千景くんはこうしてふと、姿を消す時がある。
告白目的の女の子が放課後という時間を狙い、千景くんを探したりしてるけれど、見つからない。
千景くんしか知らない秘密の場所でもあるのかな?
そんなことを考えながら窓の外に目を向けると、私はあるものを見つけた。それはこの東棟と連絡通路で繋がっている西棟の屋上。
西棟は選択授業などで行う教室があるだけで、生徒たちは用事がない限り行くことはない。
私は連絡通路を渡って、屋上へと目指した。
屋上は東棟も西棟も立ち入り禁止になっていると聞いたことがある。
おそるおそる銀色のドアノブを回すと、いとも簡単に重厚な扉が開いた。