千景くんは魔法使い
開けた瞬間に、風で髪の毛がさらわれていく。
屋上はとても開放的な場所だけど、言い方を変えれば足元にコンクリートが広がっているだけで、なにもない。
そんな場所に――千景くんがいた。
「あれ、遠山さん。どうしたの?」
内緒で近づこうと思ったのに、風でバタンと扉が閉まってしまい、大胆に存在を気づかれてしまった。
「千景くんこそ、どうしてここにいるの?」
「だって空が近くて気持ちから。ほら、景色とかすごいよ」
手招きをされて、私は千景くんがいる場所に歩み寄る。ひんやりとしてる手すりを握ると、目の前には夕焼けに照らされている街並みがあった。
「うわ……」
あまりの美しさに、息をのむ。
ビルとビルの隙間から反射してる夕日に、その中を優雅に飛んでいる鳥たち。自分が住んでいる街をこうやって上から見たのは初めてだった。
「この景色を見たくて、たまに魔法で鍵を開けてここに来てるんだ」
「そうだったんだ。本当に綺麗だね」
屋上から見えたのは街並みだけではなく、グラウンドで汗を流しているサッカー部の人たちのこともよく見えた。