千景くんは魔法使い
「……本当に、景色だけ?」
気づくと、私はそんなことを言っていた。
だって千景くんが手すりに寄りかかりながら、練習してるサッカー部の人たちのことをじっと見てるから。
すると、千景くんはぽつりぽつりと自分のことを話はじめた。
「俺さ、昔、サッカーのジュニアチームに入ってたんだ。平日も学校終わりにナイター練習をやって、土日は別のチームの人たちと試合するって感じの生活してて、日本クラブユースの監督にも教えてもらってた。それで、中学になったらうちのチームに来いってスカウトもされてたんだ」
「……じゃあ、どうして辞めちゃったの?」
問いかけると、千景くんはぎゅっと手すりを握った。
「あの頃の俺は自分のテクニックにすごい自信があって、簡単に言えば俺以外に上手い人はいないって思うくらい偉そうだった。司令塔みたいにみんなに上から指示をして、試合でも仲間に頼らずに、ひとりよがりの行動ばっかりしてたよ」
この間の体育倉庫で、千景くんに大きな失敗をしたことがある?と聞いたら、あると言っていた。
もしかしたら、千景くんの失敗はこのことだったのかもしれない。
「そんなことばっかりしてたら、いつの間にか修復できないほど仲間たちとの仲が悪くなって、気づいたら……俺は誰からもパスを回してもらえなくなってた」
「………」
「ひとりでできると思っていたのに、ひとりじゃなんにもできなくて、そのままチームを辞めたんだ」
まさか千景くんにそんな過去があったなんて想像していなかった。
「それからだ。突然、魔法が使えるようになったのは」
千景くんは自分の手のひらを見ていた。なんで魔法が芽生えたのかは、本人もわからないそうだ。