千景くんは魔法使い


「……魔法で、またサッカーをやろうとは思わなかったの?」

「魔法は動かしたり、消したり、作ったり、()せたりできるけど、人の心までは操れない。またどこかのチームに入ったところで、俺は熱くなって同じことを繰り返すかもしれないし、もうずいぶんとボールにさえ触ってないから、足も鈍りまくってるよ」

千景くんはそう言って、切なく微笑んだ。

私も腫れ物みたいに扱われることがあったから、人の心が簡単に離れていくことを知ってる。

それを一度経験してしまうと、怖くてたまらなくなるということも。

私はずっと千景くんのことを手の届かない人だと思っていた。でも、千景くんの過去を知って、今は少しだけ存在を近くに感じている。


「そろそろ帰ろうか」

千景くんが屋上の扉に向かって、歩きはじめた。

耳にはやっぱりサッカー部の人たちの声が響いていて、千景くんのその背中が私には寂しそうに見えていた。

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