千景くんは魔法使い


幼稚園って、普段行くことがない場所だから今からすごくわくわくしてる。

そんな中で、次の授業がはじまろうとする頃には、雲行きが怪しかった空から雨が降っていた。

気温は蒸し暑いので、音楽室の窓は雨が吹き込まない程度に開いている。

ザアアという音とともに、雨の独特の匂いがした。

あ、まずい。出ちゃう。


「……くしゅんっ!」

音楽の先生がテストで出る付点や休符の種類を教えてくれているのに、盛大にくしゃみをしてしまった。

一斉にみんなに注目されて、恥ずかしさで頭を下げる。


「風邪ひいた?」

音楽室でも席順は教室と同じなので、千景くんは私の隣だ。


「ち、違うの。ただ雨が……くしゅん」

手で覆ったので次は目立たなかったけれど、鼻のムズムズが止まらない。

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