千景くんは魔法使い


そして放課後。部活が終わってもまだ外は雨だった。

さらにしっかりと置き傘をしていたのに、どういうわけか教室にない。

誰かに盗まれたのか、あるいは特徴もないビニール傘なので間違われてしまったのかはわからない。

……どうしよう。困ったな。

私は昇降口の前で、途方(とほう)に暮れていた。

走って帰ろうかな。でも制服が濡れちゃうし、せめてまたジャージに着替えて外に出ればなんとか帰れなくもないだろうか。

「入ってく?」

と、その時。後ろから声がした。

「え、な、なんで……」

なぜか千景くんが傘を持って立っている。

「図書室で本読んでたんだ。そしたらこんな時間になってた」

「そうだったんだ」

「それで、どうする?」

千景くんは傘をパサッと広げた。

< 62 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop