千景くんは魔法使い


千景くんの傘もまたビニール傘だった。

家まで遠回りさせちゃうかもしれないし、私が入ったら千景くんも狭くなってしまう。

そんなことをぐるぐると考えて返事を(しぶ)っている私の気持ちなんて、千景くんにはお見通しのようで……。

「おいで。一緒に帰ろう」

エスコートされるようにして、手を引かれた。千景くんの手はとても優しくて、あたたかい。私はそっと、傘の中に入った。

足並みを揃えて歩くたびに、ぬかるんだ地面にふたつの足跡がついていく。

傘に当たる雨の音。どこかで鳴いているカエルの声。車が横切るたびに私の肩を引き寄せてくれる千景くんに、心臓が高鳴らないわけがなかった。

「あ、あの……」

「ん?」

私は無言で傘を千景くんのほうに寄せる。

だって、さっきからずっと雨粒が千景くんの肩に落ちていた。

「千景くんが、濡れちゃうから」

すると、千景くんのほうに寄せたはずの傘が、また私へと傾けられた。

「遠山さんが濡れるほうが俺はイヤ」

「……うう……」

そんな言い方は反則すぎる。
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