千景くんは魔法使い


千景くんとの相合い傘は思った以上の破壊力があった。

それと同時に、ふと、考えなくてもいいようなことが頭をよぎった。

千景くんは私じゃなくても、昇降口で困っている女の子がいたら傘を貸すのだろうか、と。

千景くんは自分への好意がむき出しの女の子には相変わらず冷たいけれど、その他の人には私と同じように接している。

だから、自分が特別なんて思ったことはないし、今でも十分すぎるほど贅沢な時間をもらっていると思っている。

でも、少しだけ甘やかされてしまった私の心は、千景くんに対して、もっともっとって言ってる。

「……千景くんは、どんな女の子がタイプなの?」

雨の音でかき消されてしまうと思った質問は、しっかりと千景くんに届いていた。

「あんまり考えたことないけど、好きになった人がタイプ、かな」

「い、今はその、好きな人とか……」

「うーん。どう思う?」

「わ、私に聞かれても……」

なんとなく、はぐらかされてしまったような気がするけれど、好きな人がいると言われなかったことに、どこかホッとしていた。

いるって言われたら、きっと泣きたくなってたと思う。

「……小野寺?」

と、その時。私たちの前からひとりの男の子が歩いてきた。

学年はたぶん同い年くらい。髪の毛は茶色で制服を気崩していて、千景くんとは真逆の不良という雰囲気の人だ。

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