千景くんは魔法使い
「あのチームで全国行くって言ってたやつらは俺も含めてサッカー自体を辞めた人も多い。全部、お前のせいなのに、なんで楽しそうに笑ってんの?」
真田くんは千景くんのことを不服そうに睨み付けていた。
「まじでムカつくよ。俺、お前のこと許さないから」
そう言って、苛立った空気をまとったまま、私たちの横を通りすぎていった。
「ち、千景く……」
名前を最後まで呼べなかった。
確認するように見上げた千景くんの横顔が、あまりに悲しそうだったから。
こういう時、なんて言ってあげたらいいんだろう。
慰めるのも、励ますのも違う気がして、言葉が出てこない。
「ごめん。行こうか」
千景くんは私に心配をかけないように歩き出した。
傾けている傘から落ちた雨が、また千景くんの肩に当たっている。
それとともに、千景くんの瞳を濡れていた。