千景くんは魔法使い
それから数日が過ぎて、職場体験の日を迎えた。
私たちが担当するのはたんぽぽ組で、年齢は5歳の年長クラス。幼稚園に着いて、保育士さんと同じエプロンを付けると、さっそく職場体験の説明が園児たちにされた。
「前から言っていたとおり、今日は中学生のお兄さん、お姉さんが来ています。今日1日先生としてみんなと遊ぶので、まずはお名前を覚えて仲良くなろうね!」
保育士さんからの合図で、私たちは自己紹介をした。
「小野寺千景です。よろしくおねがいします」
園児たちに笑いかけていたけれど、私は千景くんの元気がないことを知っている。
――『なくなったよ。俺たちのチーム。お前のせいでな』
おそらく千景くんは、そのことを知らなかった。
自分が抜ければ元どおりになると思っていたはずなのに、そうじゃなかった。
あの時、私はなにも言えずに、今だってそのことに触れないまま今日に至ってしまったけれど……千景くんの心はずっと沈んだままだ。
「……は、な、花奈!」
桃ちゃんに呼ばれて、ハッと我に返る。
「自己紹介、花奈の番だよ」
ぼんやりとしてる内に、自分の番が回ってきていた。園児たちが体育座りをして、私のことをじっと見ている。
……どうしよう、なんかすごく緊張してきた。
「とと、遠山花奈です。えっと、14歳です。あとはその……」
頭が完全に真っ白になっていた。隣にいる桃ちゃんに「よろしくお願いしますで大丈夫だよ」とフォローされて、私は復唱する。