千景くんは魔法使い
「とりゃっ!」
と、その時。またそうまくんが大きな声を出していた。
青色のゴムボールを思いきり蹴って空へと飛ばしている。
危ないな……と思いながら見ていると、三回目に蹴ったボールが園の外へと飛んでしまった。
そしてなにを思ったのか、そうまくんは柵の間をすり抜けてボールを追いかけに行ってしまった。
た、大変……!
近くに保育士さんがいなかったので、私は慌ててそうまくんの後を追った。
幼稚園の前の道路はスクールゾーンになっていて、朝は歩行者しか通れないようになっているけれど、今の時間帯は普通に車が走っている。
そうまくんの蹴ったボールはちょうど横断歩道の真ん中で止まっていた。
そうまくんの目に信号は見えていないようで、赤にもかかわらずに道路へと入っていく。
「そうまくん、ダメ!」
必死に呼び掛けても、届いていない。
走ってそうまくんの元に行こうとした時、軽自動車が近づいてきていた。
よそ見をしているのか、そうまくんが道路にいるのにスピードが落ちない。
「そうまくん、止まって、そうまくん……っ!」
そうまくんはボールを抱えた。やっと車の存在に気づいたようだけど、そのまま立ち尽くしている。