千景くんは魔法使い


「とりゃっ!」

と、その時。またそうまくんが大きな声を出していた。

青色のゴムボールを思いきり蹴って空へと飛ばしている。

危ないな……と思いながら見ていると、三回目に蹴ったボールが園の外へと飛んでしまった。

そしてなにを思ったのか、そうまくんは柵の間をすり抜けてボールを追いかけに行ってしまった。

た、大変……!

近くに保育士さんがいなかったので、私は慌ててそうまくんの後を追った。

幼稚園の前の道路はスクールゾーンになっていて、朝は歩行者しか通れないようになっているけれど、今の時間帯は普通に車が走っている。

そうまくんの蹴ったボールはちょうど横断歩道の真ん中で止まっていた。

そうまくんの目に信号は見えていないようで、赤にもかかわらずに道路へと入っていく。

「そうまくん、ダメ!」

必死に呼び掛けても、届いていない。

走ってそうまくんの元に行こうとした時、軽自動車が近づいてきていた。

よそ見をしているのか、そうまくんが道路にいるのにスピードが落ちない。

「そうまくん、止まって、そうまくん……っ!」

そうまくんはボールを抱えた。やっと車の存在に気づいたようだけど、そのまま立ち尽くしている。

< 70 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop