千景くんは魔法使い
桃ちゃんと分かれ道で別れると、私は千景くんとふたりきりになった。
夕焼けに照らされている地面に映っているふたつの影。
千景くんの髪の毛が揺れるたびに、オレンジ色のシルエットも細くゆるやかに動いていた。
「俺、遠山さんが車に跳ねられそうになったのを見て、本当に心臓が止まるかと思ったんだ」
あの時の千景くんは本当に必死だった。だからこそ、大きな声で叱ってくれた。
「本当にごめんね」
すると、千景くんが私の手を握った。
ドキッと、心臓が一気にうるさくなる。
どっちの体温かわからないほど、手は熱かった。
「俺、自分が思っていた以上に遠山さんのことが大切みたい」
千景くんのビー玉みたいな瞳に、私が映っている。
夕日のせいにできないくらい、顔が真っ赤になっていた。
「俺も今日から花奈って呼んでいい?」
「え……?」
「花奈」
まだいいって言ってないのに、千景くんは甘い声で私の名前を呼んだ。
私はずっと、千景くんへの気持ちに名前を付けなかった。
付けてしまえば、もっと溢れてしまう気がして怖かった。
でも、もう無理かもしれない。
私はこんなにも千景くんのことで胸がいっぱいだ。
繋いでいる手を、私はぎゅっと握り返す。
私、私は……千景くんのことが好きだ。