千景くんは魔法使い
千景くんの✫*゚☆.*。✫へんか
梅雨前線が遠ざかると、蒸し暑いと感じる日も増えてきた。
そんな中で今日も私はちっちをエコバッグに入れてさんぽをしていた。
「ねえ、せっかく猫用のバッグ買ったんだから、そっちに入ってくれたらよかったのに」
「ニャン、ニャン」
ちっちはわかってないと言っているかのように不服そうな顔をしている。
この地味でなんの特徴もないエコバッグのどこがいいんだろうと首を傾げながらも、そんなに気に入っているならちっち専用にしてあげようと思っていた。
「ニャーン」
ちっちは手を伸ばして上を見ている。空には一筋の飛行機雲が浮いていた。
「なんだかちっちと友達同士みたいだよね」
私たちのやり取りを、千景くんが隣で微笑ましそうに見てる。
いつの間にか私たちの距離感も近くなり、毎日欠かさずメッセージのやり取りをしてるだけではなく、休日でもこうしてちっちのさんぽに付き合ってくれることも増えていた。
「ちっちは完全に私のことを下に見てるけどね」
お母さんやお父さんがいる時には大人しいのに、私とふたりきりだとワガママし放題で、この前も買ったばかりの靴下を取られた。
どうやらちっちは私のものは自分のものだと思っているようだ。
「甘えてるだけだよ」
千景くんもちっちと同じように飛行機雲に目を向ける。はるか遠くに伸びている線なのに、なんだか千景くんなら触れてしまいそうだ。