千景くんは魔法使い


「ねえ、千景くんって、空とか飛べたりするの?」

「うーん、どうだろう。わかんないな。試したこともないから」

「しようって思わなかったの?」

「だって人間が空なんか飛んでたら目立つでしょ。騒ぎになったら困るし」

「たしかに、そうだよね」

でも、私だったら一回くらいは試してしまうかもしれない。

「飛んでみたいの?」

「え、あ、違うの。べつに催促(さいそく)したつもりじゃなくて……」

慌てて訂正しようとすると、千景くんはわかりやすく不満そうな顔をしていた。

「なんでそうやってすぐマイナスなことばかり考えるの。俺は花奈がしてみたいのかなって思って聞いただけだよ」

――花奈。

あれから千景くんは本当に私のことを名前で呼んでくれるようになった。

千景くんの口から出てくる〝花奈〟はとても柔らかくて、くすぐったくて、まだ呼ばれ慣れていない。

「空は……うん、飛んでみたいかな。憧れでもあるし」

昔読んでいた絵本に出てきた魔女を真似して、家のほうきに股がったこともある。

もちろん飛べるわけもなくて、『魔法のほうきじゃないからだ!どこで売ってるの?』なんて、駄々をこねてお母さんを困らせたっけ。

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