千景くんは魔法使い


さんぽの途中で、前に千景くんが買っていたパン屋さんを教えてもらった。

外観も絵本に出てくるようなお店で、パンの甘い匂いに誘われて私は家族ぶんの動物パンを買った。

「レッサーパンダのレモンクリームパンはなかなか売ってないんだよ。焼き上がってもすぐに売り切れるから」

「そうなの?買えてよかった!」

天気もいいし、千景くんも隣にいるし、こんなに幸せでいいのかなって思うほど、気持ちがぽかぽかしていた。


「うわ、最悪」

そんな気持ちを打ち砕くような低い声。
コンビニの前を通りすぎようとした時、自動ドアが開いて誰かが出てきた。

それは不機嫌さをむき出しにしている真田くんだった。


「しかもまた彼女連れかよ」

真田くんは私と千景くんのことを交互に見る。

べつに千景くんが誰といようとこの人には関係ないことなのに、まるで千景くんが楽しそうにしてることが気にくわないような顔で、露骨に舌打ちまでしてきた。

ムッとしながらも心配になって千景くんのことを見る。千景くんは言い返すこともしないで、また暗い顔をしていた。

きっと言いたいことがあっても、真田くんに対して後ろめたい気持ちがあるから言えないんだと思う。 


たしかに昔の千景くんにも悪いところがあったのかもしれない。けれど、もうそれは4年も前のことだし、そんなに千景くんのことを追い詰めなくてもいいのにと思ってしまう。

「あ、あの、私たち急いでいるので」


ふたりにしかわからないことがあっても、私は今の千景くんのことを守りたい。

真田くんとのやり取りを終わらせるようにして、私は千景くんの手を掴んだ。

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