千景くんは魔法使い


「……ち、千景くん?」

私の呼び掛けに、千景くんは反応しない。その代わりに、千景くんの身体がぼんやりと光っているように見えた。

ガタガタと、ありとあらゆるものが揺れている。周りの人たちは地震かもしれないと姿勢を低くしながら、地面にしゃがみ込んでいた。

地震じゃない。

千景くんのほうからビリビリと目に見えない怒りを感じる。

なにが起きているのかわからない。

でも沈めなくちゃ……。大騒ぎになる前に。

「真田くん、お願い。手を離して。それで今日はこのまま帰ってください」

「は?お前こんな時になに言って……」

「いいから、帰ってください!」

私は珍しく強い言葉を使った。


今は真田くんがいると余計に、千景くんの心が乱れてしまう。私の必死な表情に、真田くんはやっと肩から手を離した。


「よくわかんねーけど、あとで説明してもらうからな」

真田くんはそう言って、その場から去っていった。

その瞬間に地鳴りは落ち着いて、揺れもピタリとおさまった。


「千景、くん?」

もう一度呼び掛けると、千景くんは意識を失うように倒れてしまった。

間一髪のところで支えることができたけれど、私もなにが起きたのか頭の整理がつかない。


きっと千景くんは魔法を使った。

いや、使ったというより、魔法があちこちに飛び散っているような感じだった。

どうしようとあたふたとしていると、「大丈夫ですか?」と女性に声をかけられた。

年齢は40代くらいだろうか。とても優しそうな人だった。
  

「あの、友達が意識を……」

「……千景?」

「え、千景くんの知り合いですか?」

「ええ。私は千景の母です」

……ち、千景くんのお母さん!?

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