千景くんは魔法使い
結局、騒ぎは地震ということで片付けられた。そして私は千景くんのことを運ぶためにお母さんと綺麗な家が続く住宅街を歩いていた。
その一角にある【小野寺】と書かれた表札。まさか、まさか……こんな展開になるとは思っていなかった。
「熱はないし、たぶん貧血ね」
ベッドに寝かせた千景くんの具合をお母さんは慣れたように診ている。
まるで意識を失うことが初めてではないような感じで、動揺もしていなかった。
私は図々しくも付き添うようにして、千景くんの部屋に上がらせてもらっている。
千景くんの部屋は青色のものが多くて、難しそうな本もたくさんあった。その中に、サッカー関連のものもいくつかあって、小学生の頃にもらったであろう賞状やトロフィーが飾られている。
「ごめんなさいね。バタバタしちゃって。えっと、あなたは……」
「と、遠山花奈です。千景くんとは同じクラスで、よくお世話になっています」
「そう、花奈ちゃんね」
にこりと笑った顔が、千景くんによく似ていた。
千景くんは魔法を使いすぎてしまったのか、それともたまたま貧血を起こしただけなのかはわからないけれど、今は穏やかに眠っている。
……さっきの千景くん。私の声がまったく届いてなかった。
ううん、それだけじゃない。
いつも私のことを守ってくれる魔法が、なぜかとても怖いものに感じた。
まるで千景くんの意思から離れて、魔法が勝手に暴走してるみたいに見えた。
「千景、学校ではどんな感じなのかしら。聞いてもいつも教えてくれないのよ」
「お喋りなほうではないけど、最近はよく笑うようになりました。あと、女の子からとても人気者です」
「あら、そうなの?」
千景くんのお母さんは自分のことのように嬉しそうな顔をしていた。