千景くんは魔法使い
「ごめん。なんか迷惑かけたみたいで……」
「ううん、迷惑なんてかけられてないよ!千景くんがなんともなくて本当によかった」
千景くんのお母さんはすぐ戻ると言ったのに、帰ってこなかった。
千景くんいわく、お母さんのすぐは二時間くらいの意味なんだそうだ。
「俺の部屋、なんにもなくてつまんないでしょ?」
「そんなことないよ!むしろ見すぎてしまうくらいで……」
部屋は整理整頓されていて、たしかに物は少ないけれど、ちゃんと千景くんの生活感はある。
ハンガーラックにかけられている制服や、本が置かれている勉強机。千景くんのベッドでさえも、いつもここで寝てるんだなと思うと、過剰に意識してしまう自分がいた。
「なにか見たいのとかある?」
「ア、アルバム!」
「え?」
「だってそこに……」
私は本棚を指さした。
あまり勝手になにがあるか探してしまうのは悪いと思っていても、一番目立つ場所にしっかりとアルバムと書かれたものが収納されている。
「見ても面白くないかもしれないけど、べつにいいよ」
千景くんはアルバムをテーブルに置いて、さっそくページをめくってくれた。