千景くんは魔法使い
「前に体育倉庫でつばめの話をした時、千景くんは私の失敗も含めて頑張ったねって言ってくれたでしょ?私はあの言葉に救われたの」
心がスッと軽くなっていくようで、まるで新しい自分に生まれ変わったような、そんな清々しさも感じていた。
だから今度は私が伝える。
私が千景くんのことを救いたい。
「千景くんは一生懸命だっただけだよ。周りがなにを言おうと私はサッカーをやっていた頃の千景くんを否定しない。だから、千景くんもそうであってほしいよ」
気づくと私は千景くんの手を強く握りしめていた。
「……花奈」
千景くんがまっすぐに私のことを見てる。
千景くんが私の髪の毛に触れた。撫でるように指先が滑ったあと、その手は私の頬に移動してきた。
ドクン、ドクンと、心臓がものすごい速さで動いている。
千景くんの顔がゆっくりと近づいてきた。そして……。
「……うぐっ」
千景くんの頭に黒いなにかが飛び乗ってきた。
まるで私たちの様子を見ていたように、やれやれというような表情で顔を洗っている。
「そうだ、ちっちがいたんだ……!」
すっかり忘れかけていたけれど、ずっとエコバッグにちっちを入れていたことをようやく思い出した。
千景くんは自分の頭から離すようにちっちの体を持ち上げた。
「もしかして邪魔したの?」
千景くんに懐いているはずなのに、ちっちはそっぽを向いていた。
「こいつも花奈のことが好きみたい」
え、今、こいつもって言った?
ってことは……千景くんも?なんて、聞けるはずもなく。そうこうしてるうちに千景くんのお母さんが帰ってきたので、私は家へと帰った。