千景くんは魔法使い
ジャージに着替えて体育館に向かうと、一時間目の体育が始まった。
体育館の窓はぜんぶ開けられているけれど、それでも風通しが良くないせいかとても蒸し暑かった。
「花奈。ペアになろう」
準備運動は桃ちゃんが誘ってくれた。
他愛ない話をしながら体をほぐしていると、隣の女の子たちの会話が聞こえてきた。
「夏期講習の予約した?」
「そろそろ進路とか決めていかないとだよね」
つい最近、ランドセルを卒業して中学に上がったような感覚がしていたのに、すでに将来の話も増えてきている。
……進路、か。
まだ14歳だって思ってたけど、来年は中学三年生だし、そうなれば受験が待っている。
……高校生の自分なんて、全然想像できないな。
そんなことを考えているうちに準備運動が終わり、男女別に分かれてバスケの練習試合をやることになった。
「ちょっと先にボール触っておこうよ」
桃ちゃんがカゴからバスケットボールを取り出した。
「ほら、花奈。パス!」
「わわわっ」
桃ちゃんからのパスに、慌ててボールを胸に抱え込む。
バスケットボールって、こんなに硬かったっけ?
去年は体育にバスケはなかったから、ボールに触ること自体数年ぶりかもしれない。