千景くんは魔法使い
「ちょっとドリブルしながらパスして、一回ゴール決めてみようよ!」
「え、あ、う、うん」
ドリブル……ドリブル……と、心で念じながらボールを跳ねさせる。でもなぜか上手くできなくて、低空でちょっとだけ小刻みにボールが動いてるだけ。
「ちょっと花奈。それじゃ毬つきだよ!」
「え、ごめん。なんかドリブルってやったことないかも……」
ボールに遊ばれていると、千景くんと目が合った。
どうやら最初から見られていたみたいで、口元に手を当てて笑っている。私は恥ずかしさのあまり口パクをした。
〝みないで〟
すると、千景くんはすぐに口パクを返してきた。
〝かわいい〟
その言葉にドキッとして、顔が熱くなる。
い、今、可愛いって言った……?
いや、同じ口の動きってだけで、べつのことを言っていた可能性もある。
だけど私は単純だから、ドリブルが出来なかったことも忘れて浮かれていた。