千景くんは魔法使い
――ピピピィ!!
体育館に鳴り響くホイッスルとともに、練習試合が始まった。
中央に置かれた得点ボートを仕切りにして、隣のコートでは男子も試合をしている。
「千景くん、次だってよ」
「えーじゃあ、うちらと同じだから見れないじゃん!」
コートの外で待機をしてる女の子たちは、私たちの試合なんて興味がないようで、視線はずっと千景くんに向いていた。
千景くん、次なんだ。ってことは、私は見れる。
「花奈っ、パス!」
「……え、わっ」
ぼんやりとしていた思考を元に戻すと、桃ちゃんからボールが回ってきていた。
……ド、ドリブルできない。
でもたしかなにもしないで5秒以上ボールを持っていたら反則だったような気がする。
私は同じ色のゼッケンを付けた人が近くにいたので、すぐにボールを渡した。
試合中、私はなんの役にも立たずに、ただ邪魔にならないように動くことで精いっぱいだった。
そんな中で、「おい、どこに投げてんだ……!」という男子の声が聞こえてきた。
まるでスローモーションのように、待機している女の子たちの視線もボールを追うように、こちらに向く。
みんな私のほうを見てる?なんで?
「は、花奈、危ないっ……!!」
桃ちゃんの声が響くのと同時に、ドンッという鈍い音が体育館にこだました。