千景くんは魔法使い


――ピピピィ!!

体育館に鳴り響くホイッスルとともに、練習試合が始まった。

中央に置かれた得点ボートを仕切りにして、隣のコートでは男子も試合をしている。

「千景くん、次だってよ」

「えーじゃあ、うちらと同じだから見れないじゃん!」

コートの外で待機をしてる女の子たちは、私たちの試合なんて興味がないようで、視線はずっと千景くんに向いていた。

千景くん、次なんだ。ってことは、私は見れる。

「花奈っ、パス!」

「……え、わっ」

ぼんやりとしていた思考を元に戻すと、桃ちゃんからボールが回ってきていた。

……ド、ドリブルできない。

でもたしかなにもしないで5秒以上ボールを持っていたら反則だったような気がする。

私は同じ色のゼッケンを付けた人が近くにいたので、すぐにボールを渡した。

試合中、私はなんの役にも立たずに、ただ邪魔にならないように動くことで精いっぱいだった。

そんな中で、「おい、どこに投げてんだ……!」という男子の声が聞こえてきた。

まるでスローモーションのように、待機している女の子たちの視線もボールを追うように、こちらに向く。

みんな私のほうを見てる?なんで?


「は、花奈、危ないっ……!!」

桃ちゃんの声が響くのと同時に、ドンッという鈍い音が体育館にこだました。

< 96 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop