一夜の過ちで授かったら、極上御曹司に娘ごとたっぷり溺愛されています
「その他は英語と、フランス語、ドイツ語は日常会話程度です」
サラリと言った私に、専務は感心したように声を発した。
「すごいな。僕は英語と簡単な中国語だけだ」
それでもすごいですよ。
そう思った言葉は声にはせず、グッと飲み込んだ。
どうであれ、専務をほめる言葉を発する気にはなれなかった。
「それほどでもありません」
表情を変えず言った私に、専務は少しだけ悩むような表情をした。
「差し支えなければどうして前職を?」
その言葉に、私はタブレットを操作していた手がピタリと止まった。
なんとも言い表せないザワザワと砂をぶちまけた気持ちが心の中で広がる。
あなたがそれを聞く日が来るなんて。
そんな日を想像もしなかった私は、自嘲気味に微笑んだ。
「人にはどうしようもないことがあるんです」
専務を見ることなく言った私に、小さく呟くように「申し訳ない」そんな声が聞こえたが、私は小さく頭を下げると、専務室と続きになっている隣の部屋に用意されている自分のデスクへと戻った。