一夜の過ちで授かったら、極上御曹司に娘ごとたっぷり溺愛されています
しかし、あろうことかその車は、私の目の前でピタリと止まる。
よくわからないまま見ていると、運転席からいつものスーツと違う、黒のパンツに白のTシャツというラフな装いの専務が現れた。
「専務?」
呟くように言った私のもとへ、専務は走ってくると手から荷物を取る。
「遅くなってごめん。間に合ってよかった」
「あの? え?」
ホッとした表情を見せる専務に私は訳が分からず、しどろもどろに言葉を発した。
そんな私に構うことなく、専務は助手席を慣れた手つきで開けると私を促す。
ようやく自分を迎えに来てくれたことに気づき、私は慌てて首を振る。
「そんな! 住所を教えていただければ電車で……」
そこまで言った私に、専務はかなり大きなため息をついた。
その様子に、私はその意味が解らず表情を歪ませた。
「そんなに俺と一緒は嫌? 俺みたいな人じゃなく、俺が嫌ってこと?」
あからさまな不機嫌さをにじませ、助手席のドアに手をかけたまま私をジッと見つめた。
「違います! そうじゃなくて」
そうじゃなくて?
自分で言った言葉の意味が、自分で解らなくて私は言葉を止めた。
そうだ。嫌だから避けてたはず。
しかし、今思ったこと、そして咄嗟にでた言葉はまったく違った気持ちだった。
心底この優しい専務に甘えてはいけない。
そんな思いだった。