セレナーデ ~智之
6


「麻有ちゃん こんばんは。今 電話して大丈夫。」

2コールで 繋がった電話。

麻有子の声は 優しく耳元で響く。


話すうちに どんどん 時間が戻っていく。


16年も 会っていなかったことが 嘘のように。

何の違和感もなく 昨日の続きのような 二人になれる。
 

「麻有ちゃん ゆっくり食事しようよ。今度の週末とか 予定ある?」


電話で話すことが こんなに心地良いと 感じたことはなかった。


直接 耳に入る 麻有子の声は そのまま 智之の心に届く。



もっと近付きたくて。


声だけでなく 目の前で 見つめていたくて。


思い切って 誘う智之に 
 

「土曜日の夜は 大丈夫よ。昼は ゴルフのレッスンを 受けているの。」

と麻有子は答える。


土曜日の夜が 空いているということは 彼は いないのだろうか。


智之の心は 甘い期待で膨らむ。




たとえ彼がいても 必ず振り向かせる。



どれだけ待っても。
 
 



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