セレナーデ ~智之

「お母さんの処置も 終わったので。赤ちゃんを よく見せてあげて。」

と言われて 分娩台に近付く。
 

「麻有ちゃん。ありがとう。苦しかったでしょう。お疲れ様。」

赤ちゃんを抱いたまま 智之は言う。
 

「大丈夫。すごく苦しかったけど。何か もう忘れちゃった。」

麻有子の 疲れた顔は 澄みきっていて 大仕事を成し遂げた 自信に満ちていた。
 

「赤ちゃん、すごく可愛いよ。」

智之は 抱いた赤ちゃんを 麻有子の顔に近付ける。
 

「本当。可愛い。よしよし。」

麻有子は 優しく 赤ちゃんの頭を撫でる。


一瞬 泣き止んで 大きな目を開き また元気に泣きだす。
 

「可愛い。泣かないで。」


麻有子は 愛を込めた目で 赤ちゃんを見つめた。

そして そっと智之を見て、
 

「智くん、そっくり。」

と笑う。
 

「そうかな。でも泣き虫は 麻有ちゃん似だよ。」


智之も 自然と笑顔になってしまう。
 

二人の子供だから。



智之と麻有子の 全てを受け継いだ。


それ以外 なにも混ざっていない 子供だから。


愛しさしか感じない。

この子を幸せにしたい。


そのためなら どんな苦労もできる。


智之の胸を占める 新しい愛は また智之を成長させた。
 


< 58 / 91 >

この作品をシェア

pagetop