セレナーデ ~智之

大学生の間に 何度か 軽井沢に行っては 麻有子の家の前を 通った智之。


偶然は 一度しか無く 麻有子を 見かけることはなかった。
 


「俺 就活して 一般企業受けるから。」

大学二年の終わりに 智之は 両親に言う。
 

「お父さんの会社は 嫌なのか?」

父が不思議そうに言う。


兄は 父の会社に入社していたから。


智之も 同じように 父の会社に 入社すると思っていた両親。
 


「嫌じゃないけど。自分の力を 試してみたいんだ。」

智之は 無難な答えをする。
 

「そうか。それも いいかもしれないな。頑張りなさい。」

父は 否定しないで 認めてくれる。
 

「うん。やれるだけ やってみるよ。」


少し寂しそうな顔の父に 俯いて頷く智之。



母は 父の隣で 静かに頷いていた。
 


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