愛は惜しみなく与う⑤
「分かりやすいな」

前を歩く泉は立ち止まって振り返り、あたしの顔を覗き込んだ


「不安か?」

「…んーん」

「じゃあそんな顔するなよ」


ふわっと頭を抱えられて、抱きしめられた

あたしの顔は泉の胸あたりにくっつく。心臓の音が…少し早い



「どんな杏でも受け止める自信あるから。弱音でも愚痴でもなんでもいいんだ。杏の気持ちを聞かせてくれ」


このまま時が止まればいいのに。
そんなベタなことが脳裏をよぎる。

このままこの温もりの中で、何も考えずに身をまかせたい



「…怖くて」

「うん」

「2年も無い気がする。もう、タイムリミットが迫ってる気がする」

「……うん」

「あたしまだ…みんなと居たい。後継なんてなりたくない…うぅ」


口を開けば溢れてくる言葉
涙も共に溢れる

前まで思わへんかったのに。サトルを見つけ出して復讐するのが1番の目的やったのに。

今は手掛かりになりそうな如月冬馬に会うことさえ怖い


あたしが鈴として、進んでいく世界が怖い


何事もなかったかのように、普通にこのまま過ごしたいって思ってる
< 156 / 417 >

この作品をシェア

pagetop