愛は惜しみなく与う⑤
今もほんまは逃げ出したい
足も震えてる気がする

今から踏み込む世界に震えてるのか、久しぶりのヒールに震えてるのか分からんけど



「杏様、深呼吸して」

「もう、その名前で呼ばんといて」


うっかり返事しそうになった。あたしは鈴


東堂を背負うんや



コツン
あたしのヒールの音がピカピカ光るフロアに足を踏み入れると、綺麗な音が鳴る


あたしは今日は桜色のドレスを着てる。ピンクやで?あたしが選ぶわけない色

似合うなんて思ったこともない色


こういうときに、あたしと鈴は周りから見られる印象が違ったんやろなって思う



『まぁ、東堂のお嬢さん、綺麗になりましたね』

『素敵なドレスに、素敵なお嬢さん。鈴様、お久しぶりです』


見たこともない人からいっぱい声をかけられる。愛想笑いしとけば何とかなるのは知ってる。

個別で深く関わることなんてないから


誰1人あたしが杏だと気づかない

こんなに近くで見ても

そんなに似てたかな。似てたとしても


あたしはそんなに上手に鈴のフリができるんやろうか
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