愛は惜しみなく与う⑤
そんなあたしを見て複雑な顔をした志木が、引きこもり生活をして初めて、あたしを外に連れ出した


「え?窓から出るん?」

「堂々とこの家の玄関から外に出ますか?何か言われるのも嫌でしょう」

「そうやけど…危なくない?」


3階やで?あたしの部屋。
ま、今となっちゃ3階から飛び降りるくらい出来てしまうけど。
この時は怖かったな


「あなたに新しい世界を見せます」


そう言って、半ば強引に連れて行かれたのは、東堂組だった


東堂財閥の裏で動く、ちょっとグレーな組織。

後から聞けば、志木はこの時、本当のヤクザの世界を見せて、諦めさせようとしてたらしい。
怒鳴り声や殴り合いが組の中で起こっても当たり前の東堂組

みんな血の気が多いからね


だからそこに一緒に行けば、あたしが怖がって泣いて、諦めると思ったらしい



でもそれは失敗やったけどな


あたしはその日から、毎日窓から部屋を出て、危ないルートを通りながら、東堂組に通うようになる


「杏!こっちこい」

あたしの名前を呼んでくれる東堂組の、組長の雄作さん
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