愛は惜しみなく与う⑤
そんなテンパるあたしのことなど気にもならないのか、泉はゴソゴソとスーツの内ポケットを漁る


いや、スーツ?

なんで泉スーツ着てるん?


ここに泉がおることへの驚きが大きすぎて、そんなとこに目が行ってなかったけど…

暗がりでも分かる


泉はスーツを着てる

いや、ほんまに、何が起こってるん?


「びっくりした。このふざけた道中のせいで落としたかと思った」


はぁ、よかった
泉はそう呟いて、ようやくスーツの内ポケットから手を出した



窓を背にこちらを向く泉の顔は逆光でよく見えないけど

見たことないくらいカッコいい顔をしていた



「誕生日おめでとう、杏。生まれてきてくれて、俺たちに出会ってくれてありがとう」



その言葉はまるで魔法みたいやった



ほんの数分前に

死んでしまいたいと思ってたあたしの気持ちを、180° 変えてしまう魔法の言葉



生まれてきてくれてありがとうなんて

言われたことなかった


妹が生きて…自分がいなくなる方がいいって思ってた 
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