愛は惜しみなく与う⑤
音を立てへんようにヒールにスッと足を入れる

乱れたドレスを直す
さすがに誰に会うか分からへんから、ちゃんとした格好で出なあかん

さぁ、戻るか


あまり長くても、志木が心配して探しにきてしまうか。

個室のドアを開けて、目の前の鏡に映る自分と目があった


うん、完璧鈴に見えるわ


そう思い、髪を少し直そうと鏡に近づいた



ガタン
あたしの入ってた個室の隣のドアが急に空いて、人が飛び出してきた


その姿は男

やばい


あたしを捕まえるような動き

それを避けて男の顔をしっかり見たときに



思い出した



「ま、マンションの」


一回だけ見たんや。慧がずっと怪しんでいた5階に住む男。
みんなでエレベータ乗ってたとき、少し会話をした男

慧はその後すぐに、エレベータを飛び降りて探しに行った


一回しか顔見れへんくて、それ以降1度も見かけへんかった。
防犯カメラもなにもかも、全く映らへん男


でもあたし、これでも毎日危険と背中合わせやと思って生きてるから



人の名前とか特徴覚えるの得意やねん
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