泣かないデネブと嘘つきの夢
ふたりとも身じろぎしないまま、呼吸五つぶんの沈黙がただよう。それからカイが、傾けていた首をゆっくりとまっすぐに戻した。
その間マナは、やっぱり悲しみは美しさによく似ていると思ったけれど、口には出さなかった。
代わりに、そっと目を伏せて告げた。
「明日の夜は、海に行こう」
カイは、つないだ手にきゅ、とちいさく力を込めて頷く。
「うん。サンドイッチ作らなきゃね」
「たまごと、ツナと、ハムチーズだね。カイとわたしと、ヤヨのぶん」
今度は返事がなかったけれど、マナはそれでじゅうぶんだった。
約束があればいい。簡単で大切な約束が、いくつかあればそれでよかった。