泣かないデネブと嘘つきの夢
あの日も、それからも、ヤヨは絶対にぼくとマナの前で泣かなかった。
そして、だれにもさよならを言わないまま、海の底でひとり、星になった。
* * *
「ヤヨ」
どこかで聞いてくれてるって、信じるよ。
マナが海に行こうと言ったのは、お別れを言いに行くためだということ、わかるでしょう。
だってヤヨは、マナのことも大好きだったんだから。
「明日、会いに行くよ。お願いだから、明日だけでいいから、ぼくらに見えるように光っていてよ」
ぼくらはずっと、一緒にいた。マナはちゃんと、ヤヨの好きなハムチーズのサンドイッチも持っていくつもりだよ。
ねえ、ヤヨ。最後にひとつだけ、聞いてほしい。
こんなこと、ぼくが言わなくたって、きみはとうに知っていただろうけど。
「マナが好きなのは、ぼくと、ヤヨだよ。これからも、ずっと」
無数の星の向こうから、あの日と同じ傷だらけの笑顔で、当然でしょう、とささやかれた気がした。
離れてしまわないためには、近づきすぎてはいけなかった。手を伸ばしてつないだ距離のままなら、いつまでも一緒にいられたかもしれない。
裏切ったのは、ぼくとヤヨだ。
だからぼくらは、マナに嘘をつき続ける。これからもずっと三人でひとつだという、長い長い夢をつくる。
それぞれちがう光がみっつ、同じ強さで光って、ずっとお互いを照らし続けることができると、マナだけが今もまだ、まっすぐに信じている。
『泣かないデネブと嘘つきの夢』 Fin.