大正ロマンス
振り向けば、メイドたちの冷たい目がある。それを見るたびに鈴の胸はギュッと締め付けられた。

鈴は良家のお嬢様ではない。弥勒に相応しい女性とは言えず、弥勒の周りの人間からは疎まれている存在だと結婚してすぐにわかっていた。

この時代、これまでとは違い自由恋愛が当たり前になってきている。しかし、弥勒と鈴の結婚は身分違いと冷ややかな目を向けられてしまうのだ。しかし、鈴は弥勒が愛してくれるのならと黙って耐えている。

「あの、私にできることはありますか?」

勇気を出して今日もメイドに鈴は声をかける。この屋敷に嫁いでから友人ともあまり会えなくなり、することもない。何か役に立てればと鈴は思うのだが、メイドたちの冷たい目は変わることはない。

「奥様がする必要はありません。弥勒様に相応しい女性になるために努力でもしていてください。弥勒様の奥様!」

嫌味ったらしくメイドたちはそう言い、わざと鈴にぶつかりながら仕事へ向かう。鈴は痛む肩を押さえ、泣きそうになるのを堪えた。
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