大正ロマンス
仕方なく鈴は自室に行き、椅子に座ってフランス語の勉強をし始めた。フランス語や英語が話せる弥勒に追いつこうとこっそり勉強しているのだ。

「ボンジュール……」

一生懸命単語を紙に書いていくが、発音は弥勒のように綺麗ではない。本物のフランス語を聞いたことがないため当然なのだが。

「ふう……」

疲れてしまい時計を見ると、すでにお昼を過ぎていた。しかし、食欲もなくメイドが昼食だと呼びに来る様子もない。

「私はやっぱり認められていないんだ……」

窓の外を見れば、鈴と同じような袴やハイカラを着た女性たちが通りを歩いていく。その誰もが楽しそうだ。弥勒の顔を潰さないため、鈴は他の女性たちのように働くこともできない。働ける女性が鈴は羨ましかった。

「でも、もしも子どもができてしまえばますますみんなから冷たくされてしまう……」

未だに弥勒とは体を重ねていない。鈴はいつになれば認められるのかとまたため息をつく。その時、メイドたちの声が聞こえてきた。
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