大正ロマンス
「鈴様っていつ弥勒様と離婚されるのかしら?」

「ちょっと!鈴様なんてわざわざ呼ぶ必要ないわよ。あの人は弥勒様に無理やりすり寄った女なんだから」

「それなのに「私は悪くない」って顔をしているんだものね〜……」

心ない言葉が次々に鈴に突き刺さる。否定することすら鈴は疲れ切っていた。そのままフラフラと窓から庭に出て屋敷を飛び出す。

「認めてもらえない……」

鈴は泣きながら通りを走った。



鈴は走り続け、屋敷から遠く離れた浜辺にやって来た。目の前に広がる美しい海に鈴の心は少しだけ落ち着く。

「もう帰りたくないな……」

弥勒のことが嫌いではない。むしろ優しくされ、愛され、幸せだ。鈴も弥勒を本当は愛している。しかし、周りの目が怖くて口にできない。

鈴は浜辺に座り込み、波の音を聞き続ける。穏やかな波に久しぶりに鈴の心が癒された。

「弥勒様は今何をしているのかな……」

多くの人から尊敬される弥勒を想いながら、鈴は屋敷を出る時に持ち出したキャラメルを口に含む。濃厚な甘さに鈴は目を閉じた。
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