2度目の人生で世界を救おうとする話。前編
だが、今日の妖は違う。
たくさんの人間を殺してきた変えられない事実がある。
この妖は完全に悪。
そうわかっていたからこそ私は初めからこの妖を退治という名で殺さなければならなかったのに。
この妖の言う通り、私は自分の力を無意識にセーブしていた。それこそ殺さない程度の殺意のない攻撃を繰り出し続けて。
今ここで殺さなければ私が殺される。そしてその後に何人もの無関係な人間がただこの妖の享楽の為に殺されてしまう。
覚悟を決めろ。誰も殺したくないでは何も守れない。
綺麗事だけではダメなのだ。
私に飛んできた拳を転がって何とか避ける。
その拳は私に避けられたことによりドーンっ!と派手な音を鳴らして床に大きな穴を開けた。
あれを喰らっていたら今頃私は肉片だったな。
重たい体を何とか起こし、その場に立つと、私は深呼吸をして妖を睨んだ。
もう迷わない。
「…っ」
右手にもう一度最大火力の火を発生させる。
そして私は妖目掛けて再びその火を放った。
「…なっ」
私からの火を避けようと妖は動いたが、それでも避けられない程大きな火…いや、炎が妖を包む。
「ぐあああ!クソ!人間が!人間如きがあああ!」
そしてこちらに手を伸ばしながら妖は断末魔をあげてその場で燃え尽きて灰になった。
何とか任務を遂行できたようだ。
「…はぁ」
やっと倒せたと一息付くと、私はどさりと糸が切れたようにその場に力なく倒れた。
「くっ、かは」
それからまた私の口から血が吐かれる。
こんなに瀕死になったことなんて1度目を含めてもあの最期の時までなかったのだが。
戦いに甘い考えで望んだバカな私が招いた結果がこれだ。
前回は楽勝で琥珀が来るのをただ待っていたというのに。今回は逆に瀕死状態で倒れて琥珀を待っている状況に情けなくなる。
「…こ、う?」
遠くから待っていた人物の声が聞こえる。
琥珀がやっと来てくれたようだ。大分遅いが。
「おい!紅!」
慌てた様子で私の元までやってくる琥珀の気配がしたが、私の視界はもうぼやけて周りの状況がよくわからない状態だった。
「…なんで?紅!おい!紅!」
私を抱えて琥珀が必死に私の名前を呼ぶ。
だが、私にはもうそれに答える力は残っておらず、その場で意識を失った。
あとはよろしく、琥珀。