2度目の人生で世界を救おうとする話。前編
「…」
完全に完治した右腕を無言で私は見つめる。
前回のこの時期にはこのような怪我もなく、少なくともあと二件は任務をしていた。
1度目とは少しずつ違う2度目。
ここ3ヶ月、私の周りの人達の私に対する態度の少しの違いはあれど、私を取り巻く環境の違いは全くなかった。1度目と何もかも同じだった。
それなのに今回、私が任務で怪我をしてしまったことによってその変わらなかった環境が大きく変わってしまった。
最初こそ少しだけしか違いがなかった1度目と2度目だが、私が気づける範囲だけでもだんだん違ってきていることは確かだ。
何より私の周りで一番違いを見せているのは朱。
1度目と変わらず私によく甘えてくる朱だが、ごくたまに彼は物凄く危うく壊れそうな雰囲気で私を見る。
不安そうなその目は間違いなく1度目では見たことのないものだった。
「龍はさ、私が殺される所見てたんだよね」
『…あぁ、そうだな』
私の唐突な質問に辛そうに龍が答える。
顔こそ見えないが龍のその声音だけでどれだけ嫌な記憶なのかひしひしと伝わってくる。
やっぱり嫌な記憶だよね。
私でも龍や仲間たちが死ぬのを目の前で見て正気でいられる自信はない。
そしてその記憶は間違いなく今の龍のようにトラウマになる。
だから龍も私が傷つくことを極端に嫌がる。
その姿が朱のあの不安定で不安そうな姿によく似ていた。
神様に朱の2度目の可能性について相談しようとはしているが、タイミングが合わず未だにその相談ができていないのが現状だ。
「…ごめんね」
龍に聞こえるか聞こえないかの声で私は小さく謝る。
これ以上その〝嫌な記憶〟に触れることは龍のトラウマに触れることだ。私も鬼ではないし、気分ももちろんいい訳ではないので話題を変えることにした。