2度目の人生で世界を救おうとする話。前編
武の反応は希望が持てる兆しということでいいだろう。
私はその小さな兆しを嬉しく思い、胸がいっぱいになった。
「俺からも質問なんだけど」
「何?」
「…紅は結局何を目指しているんだよ」
すっかり元の表情に戻った武が今度は私に質問をする。
「守護者になりたいのか?それともその先の次期当主の座か?」
「…」
前の私なら即座に両方と答えた筈だ。
それが私の生きる意味でもあったから。
だが今は違う。守護者も次期当主も興味はない。いや守護者に関しては辞退したいくらいだ。
でも素直にそう答えれば100%武に不審に思われる。しかし嘘をつけばこの前の実戦大会から現在までのように武を傷つける未来もあるかもしれない。
私は体感時間3分、実際の経過時間だいたい10秒だけ考えて口を開いた。
「どっちにもなる。それでこの世界を変えたい」
武を力強く見つめて私は自分の思いを吐いた。
嘘をつく時は本当のことも入れて話せばその話にリアリティを持たせることができる。
どっちにもなりたくないが、世界を変えたいのは本当だ。
「…は、あははははっ!」
え!突然何!?
私の大真面目な嘘半分答えを聞くと武は突然我慢ならない様子で腹を抱えて笑い出した。
私はこんなにも笑われるような話をしたのだろうか。疑問しかないのだが。
「久しぶりに見たな、お前のその目」
訳がわからなかったのでとりあえず黙って武を見つめているとそんな私を武がどこか嬉しそうな目で見つめる。
「お前、ずっとどこか諦めたような目してたからさ。そんなまっすぐ自分の目標話している紅、久しぶりだな、と、思って」
「…っ!」
武はわかっていたんだ。
私が2度目を生き始めたあの春からずっと嘘をついていたことを。守護者になりたい、立派な次期当主になりたい、と。