2度目の人生で世界を救おうとする話。前編






そんな私なんてお構いなしに朱はチュッと音を立てて私の指を口から出す。
それはほんの一瞬の出来事だったが、私にはとてもゆっくりに感じられ、ベビーカステラごと朱に食べられた指には朱の柔らかい唇の感触がはっきりと残っていた。

可愛らしい朱が一瞬だけ妙に色っぽく見えた。


「…」


え、これ私、逮捕確定じゃない?


「…かわいい。姉さん」


おそらく顔を真っ赤にして固まっている私を見て朱は愛おしそうに私の唇に触れる。
 

あ、もう出頭します。
義理の弟を騙してセクハラしました。


「姉弟の距離感じゃねーだろ!」


ほんの少しのドキドキと罪悪感でフリーズしている私とそんな私との距離を何故か怪しい笑顔で詰めていた朱の間にすごい勢いで武が割り込んでくる。


「…武!」


武の助け舟のおかげで私は辛うじて意識を取り戻した。


さっきはオプションとかどうでもいいとか言ってごめん!やっぱり頼りになる男だね!

武がいなければ私は今頃警察署へ行っていた。
自主的に。


「…まだ居たんですか。邪魔をしないでもらえますか?」

「邪魔もクソもねぇだろ。姉弟としての距離感保てよ」

「これが僕たちの普通ですが?」

「はぁ?頭イカれてんのか」


先程の愛らしい朱はどこへやら。
一気に表情のなくなった朱といつも通り不機嫌顔の武が私を無視して口論を始める。

武の言い分はめちゃくちゃわかる。
これが正しい周りから見たリアクションだ。








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