2度目の人生で世界を救おうとする話。前編
紅が心配だからか。
それもあるがそれだけではない。
「…あ、蒼?」
いきなり固まってしまった僕を不思議そうに紅が見つめる。
紅は男、僕とは同性のはずなのに。
すごくすごくそんな紅が女の子として、異性として可愛く見てしまう。
ああ、待って。
これって。
「…紅、僕が紅を支えたいんだ。気にしないで」
僕は紅の意見など無視して紅を支えていた腕に僅かに力を込めた。
僕は紅を異性として好きなのではないのだろうか。
僕が支えるのを辞める気がないことを悟った紅が「じゃあお言葉に甘えて」と照れ臭そうに笑う。
かわいい。
自覚してしまえばその想いが溢れ出す。
癖のある黒髪も、美しく大きな瞳も、陶器のような白い肌も。言い出せばキリがないほど今まで普通だと思っていたこと、もの、紅の全てが可愛らしくて仕方がない。
世界がまるで変わってしまったようだった。
先程までいた世界とは全てが違って見えた。
僕はこの時からずっと紅が可愛らしくて、そして何よりも愛おしくて堪らないのだ。
*****
大切なんだ。他の何よりも紅のことが。
異性として。あの時からずっと。
この想いを自覚したあの時を思い出し僕はますます紅への愛おしさで胸がいっぱいになった。
僕によって中身が飲み干され空になったコップを握る手に自然と力が込められる。
先程のまでは心地の良い冷たさがあったが、今ではその冷たさもなく、ただぬるい水滴がついているだけ。
「…」
誰にも紅を渡すわけにはいかない。
例え紅が家族として大切に想っている朱が相手であっても。
紅を幸せにするのは僕だ。