2度目の人生で世界を救おうとする話。前編
「面白いことを言うんだね。そんなことは考えたことはなかったな」
私の真剣な眼差しを受けながらそれでも麟太朗様は表情を一切変えない。
目の奥が笑っていないまま。
「それでも妖は絶対の悪なんだよ、紅。これは私たち人間にとって変えようのない事実だ」
そして麟太朗様は私の言葉を全て切り捨て、否定した。
麟太朗様には四季家の前当主である父親を妖に殺された過去がある。
また麟太朗様は能力者として長く活動し続けているので、その分多くの仲間や先輩、後輩を悪い妖によって失ってきたはずだ。
妖は基本人間に害を及ぼす存在。これが今の麟太朗様のように変えられようのない能力者の世界の常識だ。
だからこそ能力者たちは妖が憎いし、私も実際1度目の最後以外は他の能力者たちと同じだった。
こんな若造の言葉一つで変わる世界ではないのだ。
「そう、ですね…」
今ここで何を言っても変わらない。今回はこんな意見もあるのだと麟太朗様を始めこの話を聞いていた蒼、琥珀にも知ってもらえればそれでいい。
私はもうそれ以上は麟太朗様の言葉に反論しようとはせず、おとなしくしていることにした。
「…」
突然、隣から武が私の手に触れる。
突然のことで驚いたが私は表情一つ変えることなくただそれを受け入れた。
すると武はみんなには見えない机の下で私の手をそっと自分の手で包み込んだ。
きっと武なりに私を慰めているつもりなのだろう。
武の手から人の温もりを感じる。
一瞬だけ冷え切った心も武の優しさのおかげで温まった。
今はまだ1人じゃないと思えた。