2度目の人生で世界を救おうとする話。前編
だから私は縁側を通るのをやめた。
少し遠回りになるが他の道からでも自分の部屋には帰れる。
そう思ってUターンしようとした。
「…っ」
しかし振り返った先に朱がいた為、私の足はその場で止まってしまった。
何故、ここに朱が?
ここに居れば朱もあの話を聞いてしまうかもしれない。
そうなれば朱の私を見る目も変わってしまうかもしれない。
本当の姉ではない他人である私を今までのように慕い続けられるのか。
朱から次期当主の座を奪っている私を恨まずにいられるのか。
1度目で朱や周りから嫌われて独りになったはずなのにいざまたそうなるかもしれない状況に陥るとこんなにも怖いだなんて。
私は今の朱を失いたくない。
「…朱、ちょっと俺に付き合ってくれない?」
気がついたら私は張り付いたような笑みを朱に浮かべていた。
少しでも心の中を悟られないように。
「もちろん。兄さんの為なら」
それでも朱は嬉しそうだ。
おかしな私に愛らしい笑顔を向ける。
「でもその前に僕にも付き合ってね?」
朱は私にそう言うと私の手を掴んで私が避けたかったはずの襖の前へと歩き始めた。
「…っ!朱っ」
そっちは避けて通りたかった場所だ。
慌てて朱に声をかけるが朱はそれを無視して歩き続ける。
そしてあの襖の前で止まった。
「ここで少しだけ夜空を一緒に見て欲しいんだ」
まるで襖の向こう側に声が聞こえないように小さな声でそう朱は言う。
違う。自意識過剰だ。
今の朱は何も知らないはずだ。だから襖の向こうに意識がある訳がないのだ。
それなのにそうだと思えてしまって仕方がない。