2度目の人生で世界を救おうとする話。前編





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バレンタインまで1週間を切った。
朱にチョコを願われて5日。

あれから私は毎日のようにこっそり食堂のキッチンに侵入して、こそこそと1人チョコレートやクッキーなどを手当たり次第作っていた。

食堂のキッチンは部屋のキッチンよりもいろいろ充実してていい。



「…」



いつもとは違う、少しだけ長い髪が顔に当たり、鬱陶しいと思いながらも耳にかける。

私は今、ぱっと見で葉月紅だとバレないようにウィッグを被り、メガネをかけて変装をしている。

あの葉月家次期当主が堂々とキッチンを使用する訳にはいかない。
今まで作り上げてきたイメージが大きく変わってしまう。

だから電気は付けずに自分の能力の火で最小限に光を押さえて、ぱっと見は私に見えないように工夫をしていた。

今の私を見ても誰も葉月紅がここを利用しているは思えないだろう。どこかの冴えない男の子にしか見えないはずだ。


攻撃一辺倒だと思って残念だと思っていた火の能力もこんな風に攻撃以外で役に立つ日が来るなんて感動だ。



「…」



薄暗いキッチンで1人、私は無言で出来上がったクッキーを見つめる。

この5日で作ったものはただ溶かして固めただけのチョコと生チョコだ。

結果はチョコは電子レンジで派手に焦がし、生チョコは分量を間違えてべちょべちょ生チョコを作ってしまっていた。

だけどちゃんとチョコも生チョコも初日は失敗しても次の日の調理の時は反省をいかして食べれるようにはしていた。


本日はクッキー初日だ。



「…」



丸焦げだ。


火加減をしっかり見ていたはずだがあと少し焼く必要があると判断して焼いたらこうなった。


何てことだ。







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