2度目の人生で世界を救おうとする話。前編




「紅」

「…何?」

「お前が言いたくないのなら別に言わなくていい。俺はお前が力を抜いたことについて武みたいに怒っている訳でもないからな。ただ何か1人で抱えて隠していないか?」


琥珀が真っ直ぐ私を見つめる。普段無気力なくせに何故かその瞳に燃えるような強い想いを感じてしまった。
まるで私を気遣っているような態度だ。

私は正直そんな琥珀の態度に困惑した。
何故なら前回はそんな姿を私に見せたことがなかったからだ。いや、正式には今の時期にだが。
今の私は気遣われるほど弱くない。彼らと共に次期当主として肩を並べている存在だ。気遣われる理由などないのだ。


「特にはないかな」


琥珀のこの態度の理由はわからないにせよ、あったとしても言えないことなので誤魔化すように私は琥珀に笑った。


「そうか」


そんな私を見ても琥珀は表情一つ変えない。ただ淡々と言葉が漏れるだけ。
本当に何を考えているのかわかりずらい。
が、声音的に琥珀が少しだけ残念に思っていることだけは何となく伝わった。

これも長い付き合いが成せる技ですよ、ええ。


「いいか。紅。俺を始め、蒼、武はいつだってお前の味方だ。俺たちは4人で四神家の末裔だ。だからいつでも何かあれば頼って欲しい」


そんなもの嘘だ。
琥珀の真剣な言葉を脳内ですぐ私は否定する。

彼らは私の味方ではない。彼らはいつだって姫巫女の為に存在し、姫巫女の味方だった。
守護者とはそういう存在だ。

だから私は1人になって死んだんだ。


「わかったよ、琥珀。その時はよろしくね」


私は否定の言葉を呑み込んで、精一杯笑ってみせた。そんなこと微塵も感じさせないように。


「あぁ」


そんな私の言葉に満足したようで琥珀は滅多にお目にかかることのない笑顔を浮かべて私の頭を優しく撫でた。
とても懐かしい感覚。幼少期はよく琥珀に頭を撫でられていた。
こうやって彼の優しさに触れられるのも後1年ほど。触れられるうちに存分に味わっておこう。


「それでは決勝を始めます!」


会場全体に審判員の声が響く。実戦会場に立っているのはもちろん蒼と武。その2人の姿に私たちを始め、全校生徒、先生の注目が集まる。


「始め!」


そして私たちの目の前で本日最後の一戦、決勝戦が始まった。






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