2度目の人生で世界を救おうとする話。前編
自分自身のことが分からず動揺していると、いきなり右腕を何者かに掴まれた。
「…っ!?」
それからその何者かは慣れた動きで人気のない路地へ私を引っ張り入れる。
いきなり何!?
突然のことに私は焦ったが、抵抗する暇もなく素早い動きでハンカチのようなもので口元を覆われた。
「…っ」
意識がぼんやりとし始める。
意識を奪う薬を使われたようだ。
体に力が入らなくなった私の体を何者かが担いだ。
「紅!」
遠くの方で私の名前を必死に叫ぶ琥珀の声が微かに聞こる。
妖じゃん、これ。
突然のことですぐには理解が追いつかなかったが、意識を失いかけた今唐突に今の状況を理解した。
これは私たちが誘き出そうとしていた妖の仕業だ。前回と全く同じ手口で私たちに接触を図ってきたことにより、とんでもなく遅いが今更気がついた。
私たち能力者は街中で妖と戦うことをなるべく避けるように教育されている。一般人を巻き込み、被害が大きくならないようにする為の配慮だ。
なので普段の私なら気を失ったフリをして、妖にわざと連れ去られ、油断している妖を人気のないところでどーん!と退治するし、前回もそんな感じで対応したと思うが、今の私は妖を誘き出す存在としてはあまりにも隙があり過ぎた。
フリではなく本当に意識が遠のいていく。
やってしまった。前回と合わせてもこんな凡ミスしたことなんてただの一度もなかったのに。
最後の力を振り絞って重たい瞼を少し開ければこちらに必死に手を伸ばしている琥珀の姿がぼんやりと視界に入った。