2度目の人生で世界を救おうとする話。前編
3.花冠を君に
side琥珀
「紅!」
ぐったりとしている紅を担いで路地の奥の方へと男の姿をした妖が消える。
あまりにも突然のことで焦って紅の方へと手を伸ばしたがその手はただ何もない空を切っただけだった。
「…クソッ」
悪態をつきながらも急いでポケットの中からスマホを出す。
俺たちの今回の任務内容は文字通り女ばかりを狙う妖を誘き出し、退治することだ。
街中での交戦はなるべく避ける為怪しい動きをしている者を人気のない所へゆっくりと誘き出す。それから交戦…と言うのが狙っていた流れだ。
今の状況は普通なら願ってもみない展開だった。妖自ら誘き出されて、俺たちのどちらかを連れ去ってくれたのだから。人気がない所へ誘き出す手間が省けた。
と、考えたいのだが。連れ去られてしまった紅の状態が問題だ。
あれで気絶したフリでもできていれば完璧だが、あの様子では紅はおそらく本当に気絶させられている。
連れ去られる前の紅は様子が明らかにおかしかった。体調が悪いのか気分が優れなかったのかわからない。だが、あの時の紅は顔色が悪く、珍しく取り乱しているように見えた。
普段の紅の用心深さ、実力なら気絶したフリくらいできそうなものだがそんな余裕はなかったのだろう。
早く合流しなければ紅の身に何があるかわからない。
焦る気持ちを抑えながらもスマホを触って、位置情報を共有するアプリを開く。そして紅のGPSの場所を確認した。
俺たち学生の能力者はどんなに実力があっても一人前とは認められず、必ず少なくとも2人1組で行動するように義務付けられている。なのでこのような事態にも備えてお互いの位置がすぐに把握できるようにされていた。
まさかこのシステムに助けられる日が来るとは。
GPSの移動の速さは通常の人間より少し早い程度。この速さならそう遠くへすぐには移動できないだろう。