2度目の人生で世界を救おうとする話。前編
GPSの動きを見ながら俺は走り出した。
「…」
走りながらも先程の紅の様子について再び考える。
何故、紅は突然取り乱してしまったのか。
あんなにも負の感情を露わにする紅の姿を見たのは初めてだった。
紅は俺から何とか己の感情を隠したかったようだが、いつも以上にそれがうまくできていなかった。
あの一瞬で一体何が紅の心を乱したのか。
何が紅をああさせたのか。
何故紅は今にも泣き出してしまいそうな顔をしたのか。
わからない。考えても考えてもその答えを見つけ出せない。
昔はもっとわかりやすい子だった。
喜怒哀楽がはっきりしており、その表情、言動一つで紅が何を思っているのか簡単にわかっていた。
ふと俺は紅に朱と言う弟ができるずっと前、俺たちがまだ5歳にも満たなかった頃のあの穏やかな日々を思い浮かべた。
*****
俺と紅。それから蒼と武。物心つく頃から四神一家の次期当主として俺たちには交流があった。
親たち世代の当主会議の時に子どもは子どもで交流したり、ただ普通の日に遊んでみたり。
幼い頃の俺たちは次期当主なんて重たい肩書きなどない普通の友達だったのだと思う。
その中でも一際異彩を放っていたのが次期当主の中でたった1人だけ女の子である紅だった。
当時から男の子として扱われていた紅だったがそれでもまだ5歳にも満たない女の子に完璧な男の子を求めることなど無理な話で、あの時の紅はまだ男の子になりきれていない、女の子だった。
だからか俺たち…いや、少なくとも俺は幼い頃の紅を見ている以上、今現在どんなに完璧に紅が男に成り切っていたとしても女にしか見えなかった。
「こはく!」
女の子にしては短髪の黒髪を揺らして5歳にも満たない幼い紅が俺の名前を呼ぶ。
場所はシロツメクサやクローバーがたくさん生えているどこかの屋敷の庭だ。
「よつばあった?」
少し遠くの方で紅が希望に満ちた目でこちらを見る。
「ない」
「えー!そこにもないの…?」
そんな紅に紅の希望に添えない答えを無表情で答えると紅は先程とは違うがっかりした目でこちらを見てきた。
そんな目で見てきてもないものはない。