その上司、俺様につき!
ぽつんと残ったサンドウィッチをチェックすると、すべて同じ種類、卵サンドのみだった。
(卵サンドの気分じゃないけど、ランチにドーナッツっていうのも変だよね)
だとすると残された選択は、カップケーキしかない。
(カップケーキがランチ……それも虚しいな……)
決め切れず、1人でうんうん唸っていると、急に耳元で男性の声がした。
「―――今からお昼なん?」
「ぎゃっ!」
左肩に生暖かい温度を感じ、思わず飛び上がってしまった。
「いいい、飯田君かぁ……びっくりさせないでよ!」
振り返ると飯田君が、顎を押さえて床にうずくまっている。
どうやら背後からそーっと忍び寄り、私の肩に顎を乗せたらしい。
「じ、自業自得だからね?」
……と口では言いつつも、舌を噛んでいたら一大事だ。
私は心配になってしまい、いまだに立ち上がれない彼の顔を覗き込む。
「大丈夫……?」
「……たぶん」
ようやく顔を上げた飯田君の瞳は、今にも涙があふれそうになっている。
「ご、ごめんね?」
「いや、俺も……悪かったから、気にすんな。いや、それにしてもまともに顎に入ったわ……」
そう言いながら何とか立ち上がったが、足元がフラついていた。
「医務室行かなくて大丈夫……?」
「そこまで酷くないからいいよ」
「な、ならいいんだけど……」
飯田君が撒いた種とはいえ、私にも非がある。
「ごめん。自分でもあんなに驚くとは思わなくて」
心からお詫びの気持ちを伝えると、彼は何を思ったのか、グッと右手の親指を立てて見せた。
「……いいジャンプだった」
一瞬ポカンと呆気に取られたが、これも飯田君なりの気遣いだろう。
「もう! 何言ってるのよ、バカ!」
彼の仕向けてくれた通りに軽くツッコミながら、久々にほっこりした気持ちを味わう。
(他愛もないことで、こんなに笑えたのは久しぶりかも……)
そもそも飯田君と話すこと自体が面談の日の夜に、一緒に飲みに行った以来だった。
最近どうしていたのかと、喉元まで言葉が出かかったが、部屋に戻る時間にセットしておいたスマホのタイマーがポケットで震えだす。
タムリミットのアラームだった。
「あ、もう戻らなきゃ……」
「あれ? これから昼なんじゃなかったの?」
「うん……そのつもりだったけど、もうすぐ午後の面談始まっちゃうから」
結局何も食べられなかったと内心がっかりしたが、悟られないように笑顔で答える。
「……なんか、ごめん」
飯田君はいろいろと敏感に空気を読んだり察するタイプなので、誤魔化すにも気を揉むのだ。
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